株主優待が魅力のJAL(9201)、ANA(9202)の株に興味を持っている方も多いのではないでしょうか。一方でどっちがお得なのか、株価はどうなるのかという疑問があると思います。今日はJALとANAの両社の決算の比較や今後の見通しなど、投資対象として分析してみた結果をお伝えします。
JALとANAを比較するにあたり、まずは決算資料を比較していきたいと思います。
仮に赤字垂れ流しだったり財務状態が悪かったりしたら株価が暴落する恐れがあるので株を買う気になりませんからね。
ちなみに航空会社へ就職を目指す方はここに書いている内容くらいはおさえておいた方が良いです。
業界の比較は大切ですので、志望動機などを考える際の参考になるかもしれません。
目次
JALとANAを決算資料から比較|デルタ航空も添えて
JAL、ANAともにグローバル企業ですので、世界の航空業界の有力企業も一緒に比較したいと思います。
デルタ航空は世界2位の売上高を誇る航空会社です。1位のアメリカンエアラインよりデルタの方が利益率が良いのでこちらと比較することにしました。
JALとANAは2018年3月の本決算資料、デルタはmorningstar等のソースから調べられる範囲で1ドル110円換算で計算したものです。桁が大きいので四捨五入しています。
(億円) | JAL | ANA | デルタ航空 |
総資産 | 18,542 | 25,625 | 58,621 |
売上高 | 13,833 | 19,718 | 45,368 |
営業利益 | 1,746 | 1,645 | 6,725 |
営業利益率 | 12.6% | 8.3% | 14.8% |
経常利益 | 1,632 | 1,606 | 6,271 |
当期純利益 | 1,354 | 1,439 | 3,935 |
1株当たり利益 | 383円 | 418円 | 547円 |
PER | 11.19倍 | 9.97倍 | 11.25倍 |
PBR | 1.38倍 | 1.43倍 | 2.84倍 |
自己資本比率 | 57.2% | 38.6% | 26.1% |
売上高はJALよりもANAの方が大きい
JALの売上が約1.4兆円なのに対してANAは2兆円近いです。
違和感がないでしょうか。
JALは2010年の経営破綻をきっかけに不採算路線の整理を実施しましたので、旅客数はたしかにANAが多いのは間違いないですが、これほどの差があるとは思えないと僕も思いました。
調べたところ、ANAはJALよりも貨物輸送事業や商社事業などに力を入れていますし、バニラやピーチといったLCCの子会社化を進めており、これらの売上げが上乗せされています。
両社の経営戦略の違いも現れています。攻めのANA、守りのJALといった印象を受けます。
売上高はANAが上ですが、それだけでは投資対象としての良し悪しは見えませんので、もう少しみていきます。
利益率はJALの方が良い
本業のもうけから得られた利益(営業利益)で見ると、JALの方が利益率が良いことがわかります。
ちなみに株価の割安性の指標にPERという指標があり、これは純利益を株価で割って計算されるため、この値が低いほど株価は割安であるとされます。日本企業の平均は15倍程度です。
両社ともPERは10倍近辺ですので、買われ過ぎという水準ではないと見ることができます。
2017年度の決算からPERでみるとANAの方が割安となりますが、これはLCCのピーチを子会社化する際に発生した特別利益による影響です。
利益率が良い方が株価の伸び代が大きいといえますので、割安性の観点ではJALの方が投資対象として期待できると言えます。
自己資本比率、PBRは両社とも安全圏
自己資本比率は40%くらいが安全の目安とされており、両社とも合格点で倒産の危険性はないでしょう。
また、PBRという数字は企業の安全性を示すとされており低い程よいとされており、目安は1倍台ですが、両社とも問題ありません。
話が発散しますので割愛しますが、PBRが1倍を切ったり、低すぎるのも問題だと僕は考えています。
結論としては、両社ともすぐに経営が行き詰まるなどの心配はない銘柄ということです。
なお、キャッシュフローは上の表から割愛しましたが、どちらも身の丈にあった投資をしていて、危険な匂いはしませんでした。
これは株価でみると下値が堅いことを意味しますので、両社とも長期投資向きの銘柄であることが分かります。
身の丈に合わない経営をするとこうなるという関連記事です。
・【ライザップ(2928)】が連日のストップ安|決算の確認と株価が戻るのかを予想
デルタ航空ほか海外企業との比較して気づいたこと
世界2位のデルタ航空と比べると、総資産、売上高ともに半分以下ですね。
実は日本で1番の売上を誇るANAでさえも、世界の売上トップ10にさえ入っていません。
ざっくりですが、1位から3位はアメリカ、4位から7位が欧州、下の方に中国系の航空会社という感じでANAは11位です。
一方で、日本の航空会社の利益率は世界の企業と見比べてもそれほど悪くありません。むしろ良い方です。
空運業界は固定費も大きく、世界の航空会社を見渡しても突出して利益率の良い会社はありません。
エールフランスなんかは昨年度赤字転落していますので、JALもANAも世界企業を相手に健闘しているとみていいでしょう。
僕は米国株も買うので比較にデルタ航空を調べましたが、空運業界に関しては米国株である必要はないかなと考えます。
ただ、LCCの草分け的存在のサウスウエスト航空の株には少し興味があります。
決算資料を読み解いた結論
2018年11月現在、両社の株価はだいたい4,000円くらいとほぼ同じです。
そう見ると、JALの方が収益性が高い分、株価は割安ということになります。
ただし、割安だから株価が上がるわけではありませんし、今日は細部は触れませんがJALは一度経営破綻しているというのは頭の隅に置いておいた方が良いでしょう。
JALとANAの株主優待、配当利回りの比較
株式投資の楽しみの1つに株主優待と配当金があります。これらを比較してみましょう。
配当金の比較
まずは配当金です。
JAL | ANA | |
配当金 | 110円 | 60円 |
配当利回り | 2.56% | 1.4% |
配当性向 | 28.7% | 14.4% |
配当金、配当利回りともにJALが高いです。JALの株を1年間保有(正確には権利付確定日に保有)していれば1万1千円もらえるということです。
配当性向とは純利益の何%を配当金に回しているかということで、JALの方が高く株主還元に積極的だと言えます。
株主優待の比較
JALとANAの株主優待の比較はいろんな方がされてますので、ここでは簡単に説明します。
JAL | ANA | |
100株 | 1枚 | 2枚 |
200株 | 2枚 | 4枚 |
300株 | 3枚 | 8枚 |
簡単に言うとJALは3月末の権利確定日に100株持っていれば1枚、ANAは9月末と3月末で計2枚の株主優待券が貰えます。
株主優待券を使うと通常運賃の半額で飛行機に乗ることができ、マイレージによる特典航空券のように繁忙期の制限もほとんどないため、年に1回以上飛行機を使う方にはとてもありがたいシステムです。
この株主優待券ですが、金券ショップなどでだいたい4,000円で売ることができます。
ですので、株主優待の価値としてはJALは4,000円、ANAは8,000円とここでは考えます。
普通に飛行機を使う人には価値がもっと高く、通常料金3万円に使えば1万5千円の価値があるなどと度々説明されますが、じゃらんトラベルや楽天トラベルなどのパックなどは特典航空券と遜色ない料金ですので、そこまでの価値は感じません。
また、ANAは提携ホテルや免税店で使用可能なクーポンも配布していますが、主観で言わせてもらうと、使いどころが限定されすぎているため、これにはあまり価値は感じません。
JALとANAの株主優待、配当利回りを比較した結論
僕が計算した株主優待、配当利回りの比較の結論は両社互角です。
JALは11,000円の配当金+4,000円相当の株主優待券 = 15,000円相当
ANAは6,000円の配当金+8,000円相当の株主優待券 = 14,000円相当
となります。
両社とも現在の40万円程度の株価に対してかなり利回りが良い部類に入ります。
株主優待の航空券はマイル利用のような制限も少ないですので、飛行機の利用形態によっては多少価値は変わるでしょう。
JALとANAの株価推移
次に両社の株価推移を見ていきます。マネックスより過去2年の株価推移を引用します。
JALの株価推移
ANAの株価推移
JALとANAの株価推移はよく似ている
上の図のとおり、よく似た株価推移をしています。
これが意味するところは、空運業種として買われる時は一緒に買われるし、下落する時も一緒に売られるという傾向があるということです。
株価推移という意味ではどちらを買っても、大差はないかもしれません。
日本の空運業界の未来は明るい?
僕は空運業界を取り巻く外部環境は悪くないと思っています。
訪日旅行客の増加|インバウンドの恩恵
日本へ訪れる外国人旅行者数は年々増加しています。観光庁の資料を引用します。
政府はオリンピックのある2020年には4千万人の訪日外国人客の目標を掲げています。
独占とは言わないまでも日本発着便の多くを有するJALとANAはインバウンドの恩恵を大きく受けることでしょう。
関連記事です。
・インバウンド関連株|ホテル業界で注目の銘柄は
LCCの台頭
上のとおり、世界的に空運業への需要は拡大をしていますが、このビジネスチャンスに対し世界中で格安航空会社のLCCが台頭しています。
これはフルサービスを売りとするJAL、ANAの経営環境を悪化させる懸念となります。
このような状況の中、ANAは国内LCCのバニラとピーチを子会社化し、LCCの需要を自身に取り込もうとしています。
一方のJALは「ティー・ビー・エル(TBL)」を立ち上げようとしているところです。
ANAの方が動きが早く積極的ですね。ここにもJALとANAで取り組みの違いが出ています。
空運業界のリスク
最後に空運業界にとってのリスクを書きたいと思います。上のとおり、JALとANAの株価の連動性は高く、これは外部要因によるところが大きいです。
原油価格と為替の影響
原油価格が上昇したり、為替が円安に傾くとJAL、ANAの株価が下がります。
原油価格はいうまでもなく燃料代に効いてきますし、為替は国際線の収益に直結します。
両社ともデリバティブによるコモディティ取引等でリスクヘッジをしていますが、100%影響を回避することはできませんので、これらの動向には注意が必要です。
地政学リスク
テロや災害などによる地政学リスクも大きいです。
最近では台風による関西空港の閉鎖などがあり、かなりの損失を計上しています。
また、9.11のような国際的な大規模テロなどあれば大幅な株価下落は避けられないでしょう。
マイレージサービスの比較
JALマイレージクラブ、ANAマイレージクラブとも会員数が3千万人を超えており、このマイレージクラブと連携したクレジットカードであるJALカード、ANAカードはビジネスマンの一種のステータスとなっています。
僕はJALマイレージクラブに加入するとともにJALカードを持っています。
100円あたり1マイル貰えるので、コンビニなどの支払いも全てクレジット払いとすることで月1,000マイル以上は貯めています。ANAカードも同等のサービスです。
10,000マイルもあれば国内往復の特典航空券に変えられますので、1年に1回はただで国内旅行できます(もちろん宿代とかは別ですが)。
使い方によってはマイル還元は他のクレジットカードのポイント還元よりよほど効率が良いので、僕はクレジットカードは航空会社系のものをおすすめします。
まとめ
今日はJALとANAの株を買うならどっちが良いかという比較のため、投資対象として決算資料や株主優待などを調査、分析してみました。
僕は空運業界は比較的安定した成長が見込まれるため、両社とも長期投資の対象として悪くないように思います。
ただ、想定されるのはあくまでゆるやかな成長ですので、あまり株価上昇を期待して保有する銘柄ではないでしょう。
JALとANAどっちがよいかというと、上の株価推移が示すとおり、どっちでも変わらない、というのが僕の正直な感想ではありますが、今日両社の決算資料やIRなどを読み比べて両社の経営方針に違いを感じました。
一言で表すと、「攻めのANA、守りのJAL」です。
言葉ではいろいろ言えますが、数字や実際の行動が示しています。
こう言うとANAを支持しているようですが、そういうことではありませんし、答えは未来になってみないとわかりません。
でも、僕が買うなら「ANA」ですね。
最後に、話が発散することを避けるため今日は調査したほんの一部のことしか書いてないですが、航空業界へ就職を目指している方は最低限両社の決算資料に目を通されることをおすすめします。
同業種の他社と比較してはじめて見えることがあるからです。