プロジェクトマネージャーの仕事ってどんなイメージがあるでしょうか。なんとなく偉そうな肩書きですが、何をする人なのかよく分からないという人も多いかと思います。今日は大手メーカーで10年くらいプロジェクトマネージャーの仕事をしている僕の業務内容をお伝えします。
プロジェクトマネージャー(以下、「プロマネ」)とは、Wikipediaによると、プロジェクトの計画と実行に於いて総合的な責任を持つ職能あるいは職務である、とされています。
で、何する人なの?というのが全く見えてきませんよね。
これに限らずネット等による説明は、仕事内容の説明ではなく責務に対する役割の説明ばかりが目立ちます。
プロジェクトリーダーの仕事は会社や仕事の内容によって業務の幅も違えば内容も違います。
ですので、メーカー勤務の僕の仕事内容をもってこれがプロマネの仕事だ!とは言えませんが、一般的な表現では具体的な業務内容をイメージできないと思いますので、僕がプロジェクトを進行する流れにそってある程度具体的に業務の内容をお伝えします。
プロマネという仕事に興味があって、具体的に何をする仕事だろうと疑問をお持ちの学生や若手の方や未経験者の方などの参考になれば幸いです。
1.計画を立てる
あなたが一番最初に行うことが、計画立案です。
実務は計画通りには進まないことの方が多く、適当な計画で走りはじめることも多々ありますが、最初に立てた計画の出来がプロジェクトの成否に最も大きな影響を与えるといっても過言ではないくらい、実は大事な作業です。
具体的な作業で見ていきましょう。
スケジュールの立案
プロジェクト開始日(契約日など)から最終納期までの全体スケジュールを立案します。
マスタースケジュールとも呼ばれます。
例えば僕の場合メーカーですので、システム設計、電気設計、機械設計、ソフトウェア設計、製品試験などがスケジュール立案の上での大項目となります。
これらの作業は平行できるものもあれば、順に渡すものもあります。作業フェーズにホールドポイントを設定しながらマスタースケジュールを作成していきます。
かなり荒いですが、下図のイメージです。
マスタースケジュールはある程度経験を積むことで一人で作れるようになりますが、最初は各項目の作業ボリュームや相互の関連性も分からないと思いますので、いろんな人に話を聞きながら、パズルを組む感じで作っていきましょう。
会社によっては週割りや月割りスケジュール作成用のフォーマットがあったりします。
僕の場合、開発期間が1年未満の場合は会社フォーマットとは別に最初から日割りのスケジュールを作成するようにしています。
コスト配分
プロジェクトには予算があります。受注商品であれば契約金額、市場へ投入する商品であれば見込みの売上げなどから設定されます。
この予算の使い方、配分を決めるのもプロマネの仕事です。
例えば、予算が1億円だとすると、部品代に2千万、人件費に3千万、外注費に3千万、工事費に1千万、試験費に1千万などと割り振っていきます(実際にはもっと細かく、数十項目くらいあります)。
仕事は計画通りに進むことの方が稀で、予算の配分も適宜見直していくことになることが多いですので、まずは目標値というか基準という感じで設定することが僕の場合は多いです。
これも慣れるまでは適切に見積もるのが難しいですので、最初のうちは過去の類似案件等を参考にするのが良いでしょう。
ゴールの設定
ゴールの設定というとすごく曖昧な表現ですが、周りのメンバーが常に頭においておくべきこと、共有すべき目標を決めることは大切です。
例えば、コンサートなどであれば動員人数何万人とかだったり、売上高1億円以上だったり、最初はそういった漠然とした内容となりますが、そのプロジェクトの目的、達成すべき目標を最初に決めるのもプロマネの仕事のひとつです。
新商品などであれば製品コンセプトや他社との差別化ポイントなどを最初に定めます。
2.関連部門との合意、チームの形成
あなたが事業遂行の実施計画を立てた後に実施すべきことは、その計画の内容を関連する部門に周知し、合意を得ることです。
そして各部門から担当者をアサインしてもらい、チームを形成します。
キックオフミーティングの開催
プロジェクトの計画合意の場に、多くの企業ではキックオフ会議という形が取られると思います。
プロマネであるあなたは上で述べた事業スケジュールやコスト配分に加え、社内の体制表や品質管理基準、リスク管理表などをパワーポイント等にまとめ、関連部門を参集します。
このキックオフ会議には通常課長ないしチームリーダークラスが参加するのが一般的ですので、あなたから見ると目上の人たちを相手に説明しなければなりません。
最初のうちは計画の甘さを指摘されることも多々ありますし、プレッシャーを感じることも多いでしょう。
このプレッシャーから準備を入念にしようと時間をかけたい気持ちも分かりますが、これを理由にキックオフ会議をあと伸ばしにするのはよくありません。
納期寸前の1日も、プロジェクト立ち上げ直後の1日も、同じ長さの1日です。この感性が大切です。
キックオフ会議は可能な限り速やかに実施するのがプロジェクト崩れを防止するポイントの1つです。
関係部門のチーム員への挨拶回り
キックオフ会議は基本的に各部門の代表者との質疑の形で進みます。
だいたいここで各部門の担当者が決まり、チームを形成することになりますが、担当者間同士の人間関係はまだ構築されていない状態です。
キックオフ会議は全体会議の場であるため、担当者同士が気軽に話し合うという雰囲気ではないからです。
キックオフが完了したら、チーム員(各部門の担当者)やその上司へ挨拶を済ませておくべきです。
今のご時世、浪花節は流行りませんが、やはり人間関係はとても重要です。
嫌われ者のプロマネのプロジェクトは上手くいかないことが多いです。
関連部門との個別調整
重要な部門とはキックオフとは別に個別に調整の場を早めに持ちます。
ここでは全体スケジュールで提示した内容をさらにブレークダウンした調整を行います。
各部門の担当者へ、具体的に、いつまでに、何をしてほしいか、を伝え、細部スケジュール等を調整します。
WBS(Work Breakdown Structure)などを持参できればさらに良いでしょう。
この際、担当者の人となりの観察や、担当者が抱えている他案件の状況などもヒアリングしておきましょう。
前者は今後調整が必要となった時の対応の仕方を考える上で有効で、後者は作業遅れリスクなどを予め把握するためです。
米国のように指示を与えてあとはそれを守れというやり方は多くの日本企業には向かないのが現状です(僕の会社が遅れているだけかもしれませんが。。)。
3.上流設計を行う
上記を経てプロジェクトが本格的にスタートします。
プロマネは上流設計を担当します。システム設計と言い換えてもよいです。
ここからの内容は事業の特性で全く変わってきますので、あくまで参考にしかならないと思います。
サンプルとしてとらえ、自分の業種ならどうなるかと想像してみてください。
システム設計、要求仕様のブレークダウン
客先や市場のふわっとした要望を具体化する必要があります。
例えば受注生産システムの場合、客先の要望として、
「操作性がよくて、真夏の車内に放置しても壊れなくて、いつでもすぐ使える、高速な通信機器が欲しい」
だったとします。
客先はエンジニアではないのでユーザー目線で欲しいものを示します。
これに対し、
「操作はタッチパネル方式とし、耐環境性能上限は60度とし、起動時間は5秒以内、通信速度は10Mbps以上とする」
など、機器の仕様に落とし込んでいく作業です。
すごく大雑把にいうとこんな感じです。
これらをまとめて要求仕様書やシステム設計書という形でまとめていくのがプロマネの作業です。
あなたがどこまで仕様を明確化するかはシステムの大きさや会社のやり方によって異なります。
例えば信号処理にFPGAを使うかDSPを使うか、OSはWindowsにするかLinuxにするかなどまで決める場合もありますし、それは電気設計者なりソフト設計者に委ねるという場合もあります。
プロマネはあくまでプロジェクトの進行管理をするだけ、という方針の会社もあります。
上流設計とは、次の設計が動きだすために必要なことを決めること
僕は上流設計をこのように理解しています。
僕はPMBOKをきちんと読んだこともなければPMPの資格も有しておらず、システム設計や要求仕様の体系的な書き方などは明確に説明できませんが、大切なのは次の工程が作業を進めるのに必要なことを決める、ということです。
大規模な案件になるほどプロマネ1人がんばってもプロジェクトは進みません。
インプット不足でチーム員の作業が止まるということがないことを第一に心がけるのが大切だと僕は考えています。
4.客先・関連部署との調整
システム要求をまとめ、次工程に作業を渡すことができた後の日々の業務を説明します。
プロマネの出張が多いのは客先との調整が多いため
とても出張が多いです。
僕も1週間のうち1日も出張が無い週というのは稀でした。
客先との調整は営業職の仕事のイメージがあると思いますし、実際そのとおりなのですが、メーカー系の場合、その分野の技術的な知識を必要とする調整は基本プロマネの仕事となります。
エンジニアが客先調整の場に出てくるのは稀です。頻繁にそれをさせてはプロマネが存在する意味がありません。
例えば客先の要望をどのように実現するかを決めたら、社内の技術者向け資料を客先向けに修正し、報告に行きます。
また、社内調整の結果仕様を変更する必要が出れば、これも客先と相談に行きます。
納期遅れが避けられなさそうなら謝りにいきますし、不具合がでたら土下座しにいきます。
このように頻繁に客先に出入りすることが多いのも業務の特徴です。
社内の関連部門との調整(本当に骨が折れる)
プロマネであるあなたは担当する事業に関して社内の中心にいます。
そのため、社内に関わらない部門はないといっても良いでしょう。
メーカーの場合、ハード、ソフトのエンジニアはもちろん、製造部門とも関わりますし、客先調整では営業部門とも調整します。
コスト管理では経理部門とも打ち合わせますし、部品調達では資材購買部門、特許関係が発生すれば知財部門、不具合が発生すれば品質保証部門と、それぞれの社内の専門家を巻き込んで事業を推進していきます。
そして彼らは基本的に、自部門の立場を前面に出してプロマネと接します。
一方あなたは客先の立場と会社の立場の両方で物事を考えなければなりません。
時には双方正論を言っているのにベクトルが合わない、ということも多々あります。
これ以上は愚痴っぽくなってしまうので控えますが、こういう状況に迅速に折り合いをつけていくのがプロマネの手腕といえます。
時には頭を下げ下手にでたり、場合によっては懐柔したり、上職経由で話をつけてもらったりもします。
このように教科書や専門書には出てこない対人スキルも必要となります。
5.プロジェクトの状況を管理する
最初に立てた計画との差異をモニタし、軌道修正するのがプロマネの仕事と言う人もいます。
それくらい重要な業務です。
極論、計画に狂いなくプロジェクトが進行していればプロマネの仕事は計画を立てた時点で終わりです。
残念ながらそんなことがほとんどないからプロマネは存在しているのです。
ここでは技術力ではなく管理能力が重要となってきます。
工程管理
マスタースケジュールやWBSと現状の進捗具合を、週1回もしくは数日に1度、関係者からヒアリングして確認します。
会社によっては進捗状況を定期報告させる場合もあります。
そして、残念ながら多くのケースでスケジュールは計画から遅延します。そういうものです。
計画から遅れている場合、その遅延場所を特定し、その原因を追求し、対策を講じるのがプロマネの仕事です。
例えば、人が足りないのであれば補充調整し、仕様に問題があれば社内関係者を集めて仕様調整を行います。
コスト管理
コストも同様に定期的に計画との乖離を確認します。
そしてコストもほとんどの場合、上振れします。
契約金額を越えれば赤字となり、その責任を問われることとなります。
ですのでコストが想定より上振れたらその兆候を早期に察知し、対策を打たなければなりません。
よくあるのが、客先仕様を満足する性能を出すのに高額な部品が必要になったとか、開発費が想定よりも多くかかる見込みとなったなどがあります。
場合によっては、顧客満足度を犠牲にしても、製品の仕様を削減することを視野に入れる必要があります。
顧客満足度をはじめ製品の品質は大事ですが、赤字となるくらいならば事業撤退すべき、という考え方もあります。
大切なのはリスク管理
プロマネはリスク管理表というものを最初に作ります。
簡単なプロジェクトであればリスク管理表を作らないケースもありますが、これは作っておいた方がよいです。
プロジェクトのリスク管理と同時に、プロマネであるあなたの立場のリスク管理にもなるからです。
例えば突然のコスト増などが発生した場合、リスク管理表で当初からリスクとしてあげていた人と、リスク管理してなかった人では、その報告を聞く上司やマネージャーの印象はかなり違います。
前者は「材料費高騰リスクが顕在化してしまったか。」と言われ、後者は「何してんだ!」と言われます。
どちらにせよ対策は講じないといけませんが、あなたの立場は前者の方が守られます。
本来はリスク管理表であげたリスクが顕在化しないように、スケジュールやコストと同じようにモニタします。
まぁ、僕の経験上本当のリスクはリスク管理表にあがってこないリスクなんですけどね。
6.計画を阻害する要因を排除する
プロマネはプロジェクトなり商品のQ(Quality),C(Cost),D(Delivery)に対する最終責任を持ちます。
このQ,C,Dを満足するために必要なことは何でもやります。
言うまでもなく会社組織では各部門に与えられた役割があり、個々の部門がその責任を全うするというのが仕事の基本です。
この部門ごとに定められた責任分解点で過不足なく仕事の全体を包めれば良いのですが、実際にはそこに必ず隙間が発生します。
抽象的ですみませんが、この隙間から溢れる砂を一粒一粒と拾い上げていくのが日々の業務とも言えます。
まとめ
今日は僕の経験からプロジェクトマネージャーの仕事をできるだけ具体的にお伝えしました。
はっきり言って、簡単ではありません。
ストレスで鬱になったりする人も目の当たりにしています。
それでも僕は会社の事業の根幹に携わっているという実感を持てるこの仕事にやりがいを感じています。
少しでもプロマネの仕事に興味を持っている方の参考になれば幸いです。