ボーイング(BA)の株価がとんでもないことになってます。昨年は400ドルを超えた同社の株価ですが、2020年に入って一時100ドルを切るような展開となっています。コロナの影響や赤字決算、債務超過に陥ったなどが要因とされていますが、今日は僕がもう少し定量的にボーイングの業績や株価推移を分析してみます。
米国株投資家にも人気が高いボーイング(BA)ですが、直近の株価が急落、というか暴落しています。
3月20日には一時100ドルを割り込みました。
ほんの一ヶ月前まで300ドル台だったので、この一月で実に70%近い下げを記録しており、ピークからの下げ率はリーマンショックを超えています。
コロナの影響で株価が軒並み下がっているのはご存知のとおりですが、その中でも群を抜いて影響を受けているのがボーイングです。
ボーイングは優良銘柄だと思っていて、いくらなんでも下げすぎじゃないかと思い、今の株価がどういう水準なのかを調べたくなったので分析してみました。
結論からいうと、他の米国株を買うよりは反発が期待できそう、ただし、コロナが拡大を続ける今は投資そのものが危険なのであくまで余力の範囲、ギャンブルを自覚してなら買ってもいいかな、という感じです。
ボーイング(BA)ってどんな会社
米国株に投資されている方にとってボーイングは超有名な銘柄なので僕が改めて説明するまでもありませんので、ポイントだけふれておきます。
言わずと知れた航空機製造の覇者
ボーイングはジャンボの相性でおなじみの747や新型の777Xなどの航空機を製造しています。
ライバルは欧州のairbusで、民間航空機市場を二分しています。
また忘れてはならないのが、ボーイングのもうひとつの側面として防衛関連銘柄という点です。オスプレイや戦闘機のF-15なども同社製です。



近年成長著しい宇宙開発における役目も大きく、人口衛星やロケット、国際宇宙ステーション(ISS)などの開発もしています。
宇宙産業の牽引役といってもいいでしょう。
これ以外にも国防に重要なサイバーセキュリティ事業なども手がける、米国を代表するハイテク企業です。
ダウ構成銘柄の筆頭株
ボーイングはダウを構成する米国の優良銘柄30社のうちの1社に選定されています。
さらに同社の株価はダウ構成銘柄の中でも群を抜いて高く、単純平均株価で計算されるダウへの寄与度は約10%と、言うなればダウの筆頭銘柄でした。
過去形としたとおり、これは、1年前までの話です。
先般の急落を受け、今は30社の真ん中ちょい上くらいでしょうか。
売上高10兆円の米国最大の輸出企業の1つ
同社のHPによると、ボーイングは米国最大の輸出企業の一社とのことで、世界中の航空会社がボーイングの機体使っているのはご存知のとおりです。
一昨年の売上高は1,000億ドルを超えました。日本円にして10兆円規模の売上高を誇ります。
以上が簡単にまとめたボーイング社の特徴です。
防衛産業と貿易の中軸企業でありNYダウへの影響大、と、トランプさんが大切にしそうな会社ですね。
トランプの支持率が株価に支えられている側面もあると考えると、今のボーイングの株価急落を傍観するはずはないだろう、という予想も1つの考え方です。
投資家の観点でのボーイングの特徴として最低限この程度は覚えておいた方がいいでしょう。
ボーイングの株価推移
それでは本題のボーイングの株価や業績などを見ていきます。
まずは株価です。
直近の株価は冒頭のとおりですが、少し時間軸を広げてみてみましょう。下はボーイングの5年スパンの株価推移です。
いかに直近の下げが凄まじいかがわかります。
株価の今後を予想する前に、株価推移を概観してみます。
今の株価がどういう水準なのかということを考えるのに、過去を振り返ってみることは大切です。
2016-2017年、トランプラリーの立役者
トランプ大統領誕生から始まった株価の上昇、トランプラリーは皆さんご存知のとおりです。
その中でもボーイングの株価上昇は顕著でした。
ボーイングは上で触れたとおりダウへの寄与度も高く、文字通りトランプラリーの立役者といって良いでしょう。同じダウ30銘柄だとキャタピラーも爆上げしてましたね。
2016年から2017年にかけ、同社の株価はざっくり100ドルから300ドルと、約3倍になっています。
この期間は時勢もあり、同じダウ構成銘柄の中でもアップルやマイクロソフト、IBMといったIT系企業が多くの注目を集めましたが、これらの株価上昇がおおむね2倍程度に留まっていることを踏まえると、いかにすごい上昇幅かが分かります。
皮肉なことに、度重なる北朝鮮のミサイル発射や中東情勢の不安定化なども同社の株価の後押しになりました。
上のとおりボーイングは防衛銘柄でもあるからです。
2018-2019年、2度の事故も株価はヨコヨコ
2018年から2019年にかけての株価は概ね横ばいのように見えますが、実際はこの期間はいいニュースと悪いニュースが混在し、短期的に株価が激しく上下動しました。
2018年は過去最高の売上、利益を達成する一方で、2018年の10月と2019年の3月に痛ましい事故を起こしています。
「(事故を起こした787MAXは)道化たちによって設計され、その道化たちは猿によって監督されている」
というセンセーショナルな内部告発が話題となりました。
2回目の事故の直後にボーイング737MAXに対するトランプ大統領の飛行停止命令から飛行再開のめどは現状でも未定です。
それでもこの期間に株価が300ドルを切ることはありませんでした。
底値の強さを見せていたとみることもできます。
2020年、コロナきっかけの株価暴落
冒頭のとおり、2020年に入ってから株価が急落しています。
2月20日の終値が336ドル、3月20日の終値が95ドルと、1ヶ月で240ドルの急落です。
こんなの見たことありません。
決算が引き金かと思ったのですが、次に示す2019年の通期業績が赤字であることや債務超過に陥ることは1月29日の決算発表で分かっていたことですが、この日は株価はほとんど反応しませんでした。
業績悪化が折り込み済みであるとするのであれば、やはりコロナの拡大が直接の引き金と見るのが妥当でしょう。
ボーイングの決算、業績
続いてボーイングの決算、業績のポイントについて整理します。
まずは同社のIR資料から過去3年の業績の推移です。
単位(百万ドル) | 2017 | 2018 | 2019 |
売上高 | 94,005 | 101,127 | 76,559 |
営業利益 | 10,344 | 11,987 | -1,975 |
営業利益率 | 11.0% | 11.9% | -2.6% |
純利益 | 8,458 | 10,460 | -636 |
一応グラフにするとこんな感じです。
2018年の過去最高益から一転して2019年は最終赤字
2018年は売上高1,000億ドルを突破し、営業利益、純利益とも過去最高を更新しましたが、2019年は一転して22年振りの赤字転落です。
2019年通期の売上高は前年比24%減、営業利益、キャッシュフローともにマイナスです。
737MAXの運行停止に伴う生産停止が主要因です。
さらに2020年には上記の影響を受け特別損失40億ドルを計上する見込みであり、依然今後の業績は不透明といえます。
細部はボーイングジャパンのHPを参照ください。
・ボーイングジャパンプレスリリースへのリンク
自己資本比率が極めて低い
ボーイングの財務データを見ていて気になる点がありました。自己資本比率が極めて低いです。
下は米国株四季報2019年秋冬号からの抜粋です。
財務データ(百万ドル) | |
総資産 | 117,359 |
自己資本 | 339 |
自己資本比率 | 0.29% |
有利子負債 | 13,849 |
日本株では40%が安定の目安とされる自己資本比率が0.2%台です。
ここ数年の超低金利を背景に、自社株買いや積極的な配当還元などを進めてきたことが理由の1つです。
株主還元姿勢が強く投資家に支持される一方で、足元の業績に付いてきていない、と見られても不思議ではありません。
債務超過で倒産の危険性は?
最近のニュースでよくボーイングの債務超過が取りざたされています。
これは低金利で借り入れた資金を使って、利益を上回る自社株買いや配当還元をとってきたことも要因となっています。上で触れたとおりです。
一方で、日本と違い米国では債務超過が必ずしも倒産に結びつくとは考えられておらず、有名所ではフィリップモリスやマクドナルド、スターバックスなども債務超過です。
これは、しっかりと利益を出していれば、借り入れは返済できると判断されるからです。
ボーイングの場合はキャッシュフローがマイナスですので、大問題ですね。
経営の見直しを求められた結果、配当が減らされることもありえますし(というか間違いなく減配されるでしょう)、それが株価へのマイナス圧力になることも考えられますね。
737MAXの生産中止もあり、リストラも不可避です。
とはいえ、ボーイングが倒産することはないでしょう。
日本で考えたら、トヨタや日立が倒産の危機にあれば国が全力で回避させるのが予想されるでしょう。
それと同じくボーイングが倒産する時はアメリカが終わる時、それくらいの会社です。
今後の株価を占う材料は?
ここまでボーイングの株価推移と業績についてまとめてきました。
世界を代表するハイテク企業であり、航空機製造だけでなく宇宙開発など将来性の高い事業を手がける一方で、直近の業績回復に対して有効な対策が未だ見えず、株価の行方も不透明である現状が見えてきました。
最後に同社の株価の今後を占ううえで重要なポイントを考えてみました。
トランプによる公的資金の注入
ボーイングは政府や金融機関などに総額6兆円規模の資金支援を要請しています。
これに対しトランプ大統領も、3月17日の会見で「ボーイングを助けなければならない」と名言しました。
上のとおりボーイングは米国を強国たらしめている防衛関連銘柄かつ輸出筆頭企業ですので、間違いなく手厚い支援が決定するでしょう。
倒産させる訳にはいかない、という本音もあると思いますが、これが株価の下支えとして機能することは間違いありません。
潤沢な売上げ見込み
同社のIR資料によると、「受注残は民間航空機5,400機超を含め、4,630億ドル」とのことです。
これは、約50兆円もの売上の約束がある、ということです。
もちろん737MAX問題に起因するキャンセルもあるでしょう。
JALやANAなどの空運企業も新規投資を控えることが予想されます。
とはいえ、機体寿命はコロナとは関係なく近付いてきますので、機体の買い換え計画はそれほどずらせるものではありません。
この不況下においてこれだけの売上見込みを立てられるというのは強みですね。
長期金利の動向
実は僕が一番気になっているのはここです。
ボーイングに限らず、歴史的な超低金利を背景に、借りたお金をもとに株主還元施作をとっている企業は多いです。
これはつまり、今回のボーイングの株価暴落は、低金利バブルによって演出された株高が、その脆さを露呈したのではないかという懸念です。
もしこれから長期金利が上昇となれば、同社のようにある意味レバレッジをかけた経営をしている会社の株価が総崩れ、となる未来は十分にありえます。
日本も同じですが、長期金利の動向には目を離せませんね。
見えないコロナの影響
最後になりますが、やはり一番の懸念は、先が見えないコロナ被害の影響です。
航空業界はもちろん大打撃で、ANAの株価なんか見るに耐えない状況です。
ボーイングの主要顧客は航空会社ですので、これらの業績が悪化すれば、当然同社の業績も悪化します。
2020年4月現在、オリンピックは史上初めての延期が決まり、今なおコロナの影響は拡大を続けています。
普通に考えたら、こんな状況下で株に手を出すのはどうか、という場面です。
最後に参考まで、ボーイングの長期株価推移です。リーマンショック時には40ドルくらいまで下げています。
脅すつもりはないですが、コロナがリーマンを超えるなら、こういう未来も全然あり得る、ということです。
まとめ
今日はボーイングの株価推移や業績を調べてみた内容をお伝えしました。
ボーイングが超優良企業であるのは間違いなく、いくらなんでも株価1/4は売られ過ぎだろうと思う一方で、先行きは楽観視できるものでもない、というのが僕の率直な感想です。
今後数ヶ月も荒い値動きが想像されるので、同社への投資を検討されている方は、あくまで余力資金の範囲、無くなってもしょうがない、くらいの感覚の方でなければおすすめできないですね。
あっ、ちなみに僕はボーイングの株、買いました。