既にテンバガーを達成しているスタートトゥデイの株価は今後どうなる?|決算資料と7月3日の記者会見から読み解くZOZOの決意と戦略

 スタートトゥデイはファッション系ネット通販のZOZOTOWNを運営している会社です。株価も好調で時価総額は1兆円を超えました。同社の今後の株価の行方を予想するために、決算資料から業績を確認し、報道発表情報などから読み取った今後の戦略とそれに対する僕の考えなどを書きたいと思います。

 以前ZOZOTOWNがオーダースーツの製造・販売を開始するとのニュースから、ユーザーの立場で同社のオーダースーツを分析しましたが、今日は同社を投資対象として分析した結果をまとめたいと思います。昨日今日と同社についていろいろと調べてかなりの衝撃を受けました。
 
 後述のとおり同社はファッションブランドの受託販売を事業の中心としていますが、同社の方針としてPB(Private Brand)を拡大し、本格的に物作りのブランドになるつもりです。物を売るのと作るのでは全く事業が異なります。新たな挑戦を行うということです。

・ZOZOのオーダースーツについて書いた関連記事です。

スタートトゥデイの事業概要と売上推移


 同社は皆さんご存知ZOZOTOWNを運営しています。これにより、近くに店舗がない田舎でもUNITED ARROWS、BEAMS、JOURNAL STANDARD、nano・universe、SHIPS、URBAN RESEARCHといった有名ブランドの衣類を購入できるようになり、ファッション業界に革命をもたらしました。

 同社の最も主要な収入源は、ZOZOTOWNに出店するファッションブランドからの受託手数料です。これをECビジネスと呼び、非常に収益性が高い事業形態の1つです。収益性の指標のひとつとして用いられるROEは驚異の57%です(一般に10%あれば優秀な部類)。

 ZOZOTOWNは国内で圧倒的なブランド力をもっており、確固とした事業基盤を構築しています。売り上げ高も右肩上がりで2018年は約1,000億円売り上げています。

同社決算資料より

スタートトゥデイの株価推移

 過去10年の株価推移は下図のとおり右肩上がりで、2013年から10倍以上上がっています。そして今年とうとう時価総額が1兆円を超えました。これは、全ての上場企業の時価総額100位くらいにあたり、JALとかヤマハとかと同じくらいの大きさです。

 ただし現在のPERは50倍近く(日本の企業の平均は15倍くらい)、割安さはありません

 売り上げ規模、利益の増加といった成長性をもってしかこの割高感を市場に認めさせることはできない状況です。

 このため、決算等でネガティブな発表があれば株価が急落する可能性もあります。

 ただし、高PERであるということは、市場に期待されているということの裏返しでもあり、米国株のAMAZONはPER300倍でも株価は上がり続けています。

スタートトゥデイの2019年度売上計画

 インターネット環境の充実、携帯の高機能化(スマホの登場)を背景に、上で示したとおり同社のECビジネスは急拡大しました。

 一方でアパレル・ファッション業界全体として見ると非常に厳しい状況におかれています。言わずもがなの人口減少、節約指向など国内のパイそのものの拡大は見込めません。

 UNIQLOを筆頭にファストファッションの台頭による低価格化競争も激しい状況です。

 そんな中、同社の2019年度の売上高の予想は1,470億円としています。2018年度が約1,000億円の売り上げでしたので、これをさらに1.5倍にするという計画です。確かにEC事業はまだ伸びていますが、過去年20〜30%の伸びに対して、今年度は更に業績を拡大するというとても強気な計画値です。

 以下に同社決算資料の抜粋を示しますが、ZOZOTOWNの購入者の伸びが鈍くなってきています。既に国内で7百万人が利用していますので、そろそろ収束する時期が近づいているということです。

 また1人あたりの購入金額は大きくは変わっていません。個人が衣類にかけられるお金はだいたい毎年同じくらいということでしょう。

 要するにユーザー数の増加に支えられていた売上拡大ですので、このままだと50%の拡大は達成できません

・購入者推移

・1人あたりの購入金額

 これに対し、4月27日の決算発表と同時に同社は中期経営計画の中で今後の展開を説明をしています。

 同資料を見て僕がポイントだと考えたのは以下の2点です。1つは冒頭のとおり、PBによる物作り事業拡大です。スタートトゥデイはこの10月に社名を「ZOZO」に変更すると発表しており、まさしく「ZOZOブランド」を立ち上げるということです。2つ目は、海外への積極展開です。それぞれについて内容を見ていきたいと思います。

PB(プライベートブランド)の展開〜ZOZOスーツによる物作り事業への参入〜

 ZOZOスーツはいろんな有名人がインスタにアップしたりと、一瞬で全国に認知されました。ZOZOスーツによる個人の体型データをもとにベストフィットな製品を提供することが可能で、そのデータに基いたPBの皮切りとしてデニムとTシャツの販売を開始しています。

 中期経営計画ではこのPB(プライベートブランド)強化により約200億円の売上げを見込んでいます。

 PBによる売上拡大で200億円、これに従来のEC事業が昨年同等の30%成長で1,300億、合わせて1,500億という計画を達成する、ざっくりとはそういうことだと理解しました。

 このPBですが、当面はシンプルな製品ラインナップを計画しているようです。衣類メーカーとしてはまだ実績も少なく、自身の顧客のブランドとバッティングすることを避ける意味合いもあるのでしょう。

 ただ、この方針はある会社との競合が避けられません。そう、ユニクロです。
 
 ZOZOはこの巨人の持つマーケットに参入しようというのです。ZOZOの強みはZOZOスーツによるカスタムメイドによる差別化です。顧客の体型と商品満足度の関係性を機械学習するなど、ITとファッションの融合を目指しています。

 少し大げさかもしれませんが、約10年前のMicrosoftとアップルの関係性を彷彿とする構図です。

 とはいえユニクロの売上高は5兆円、一方ZOZOのPB販売の目標は200億円ですので、今すぐユニクロの脅威になる状況ではないですし、ZOZOのPBが失敗するというケースもありえます。

スーツ事業への参入

出展:TVtokyo

 7月3日にZOZOスーツのデータを使ったカスタムオーダースーツの販売開始を発表しました。僕はここにとても注目していて、この成否が今後の株価の行方を大きく左右するような気がしています。

 なぜかというと、Tシャツやジーンズは既存のマーケットの延長と見えるのに対し、スーツは明らかに既存と異なる市場であり、新規のZOZOTOWNユーザーの獲得とともにZOZOにとって新たなマーケットの獲得が期待できます。
 
 ZOZOのスーツ市場参入の報道を受け、コナカ、aoki、はるやま、青山の大手スーツ4社の株価が軒並み急落しました。市場をZOZOに奪われる懸念からです。

 じゃあビジネススーツの市場規模ってどれくいらあるのかということですが、ちょっと考えてみました。

 スーツの年間販売数などのデータは見当たらなかったので、総務省の家計調査データを参照します。

 下図のとおり減少傾向にあり、近年は1世帯あたり6千円強といったところです。
 次に総務省の平成29年人口動態調査によると日本の総世帯数は5747万世帯とのことです。
 ある企業のスーツ購入の男女比は約8:2でした。

 以上より、これら掛け合わせると約3,000億円弱くらいがビジネススーツの市場規模であると予想できます。

 我ながらちょっと怪しいなと思いますが、まぁだいたい合ってると思います。仮に10%ここに参入できれば300億円の売上増加となります。インパクトは大きいです。

 さらに実はオーダースーツ市場は伸びています

 これは安価なカスタムオーダーの登場によるもので、僕の一押しのグローバルスタイルの売り上げ高は2013年の4.3億から2018年には実に65億円となっています(同社企業情報より)。

 オーダースーツは従来高額であったため市場が伸びませんでしたが、ニーズは間違いなくあります。

 以上より僕はZOZOのスーツ事業への参入に大きく期待しています。
 
 一方で懸念点ですが、ZOZOは工場を中国に作っており、その生産能力、品質には不安があります。

 また、採寸に必要なZOZOスーツがなかなか注文者に届かない状況もあり、軌道にのるまでもう一山二山あるんじゃないかなと予想しています。

 このスーツ業界参入でこけると多大な設備投資が大きな負債としてのしかかり、株価への影響も避けられないでしょう。

海外展開への野心


 「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」という企業理念のもと、時価総額5兆円を目指す。とのことです。時価総額5兆円というと、ちょうど日本のTOP10クラスの時価総額となります。株価は今の約5倍を達成しなければなりません。

 これを達成するには、世界進出を成功させる以外にありません。同社はPBの海外売上比率を10年後には80%にすることを目標に掲げています。先立ち、ZOZOスーツを72カ国10万人に無料配布するとのことです。

 7月3日の記者会見の最後には、前澤社長が英語によるプレゼンを行いました。記者や株主へのアピール的な意味合いもあったとは思いますが、世界展開に向けた強い意気込みを示しました。

まとめ

 今日は僕も保有しているスタートトゥデイの株価がどうなるか予想しようと同社について調べた内容を書きました。

 当初は財務分析くらいのつもりでしたが、調べるうちに同社にとって今年はまさに変革の最初の年であり、かなり重要な時期にあることが分かりました。

 同社の株の購入を考えている方は、今年はかなり大きく株価が動く可能性が高いことを覚悟して購入した方がよいと思います。

 特に年4回の決算のタイミングは要注意です。PERは50倍近く、EPSもかなり低いため、売られる時は今の半値くらいは全然あり得ます

 上値は10年かけて5倍(時価総額1兆→5兆)を目指すということなので、どちらかというとリスクの方が大きいと言えるでしょう。

 株価に割安感はなく売り時を考えていたところですが、このようなチャレンジングな企業は好きなので少なくとも今年中は株を保有し続けることにします。

 もちろん計画達成が明らかに困難と判断すればできるだけ早く売ります
 
 財務分析やテクニカル指標の分析だけでは見えてこないものがありますね。その企業に興味を持つことが大事だということを改めて感じました。

 ちょっと長くなりましたが最後までお付合いいただきありがとうございました。