今日は2020年度通期決算で減配が発表されたJTこと「日本たばこ産業(2914)」の株は買い時なのか、ということについて考えてみました。結論から言うと、僕は割と狙い目じゃないかと思ってます。依然として配当利回りは高水準ですし、今のタイミングは特に投資初心者の方にも比較的おすすめな銘柄かなと思います。
2月9日に発表されたJTの2020年度決算で、同社は上場来初となる減配を発表しました。
これが嫌気されたのか、翌日10日の株価が急落するという事態となりました。
この記事はそれから一ヶ月後に書いているものですが、株価は回復どころか、さらに下落しています。
決算発表前の2150円から一ヶ月たちますが、1900円と、実に10%近くも下落したままです。
多くの人が言われるように、斜陽産業であるたばこ株に将来性がないということは、総論では僕も同意です。
ただ、それでもこれは売られ過ぎなんじゃないかと思い、決算資料を眺めつつ、僕なりに少し調べてみました。
この記事では概ね以下の視点からJTの株価を分析しています。
・配当利回り(株主優待こみ)
・JTの業績、将来性
株価が上がるか下がるかなんか誰にもわかりませんが、それでも僕は今こそ狙い目じゃないかと思っていて、そのように考えた理由をお伝えします。
目次
現在の株価は買い時か
まずはじめにJT(2914)の現在の株価をみてみましょう。
上場来初めての減配発表で株価急落
冒頭のとおり、2月9日の決算発表の翌日の株価は急落しました。
この主要因は同社の民営化後はじめて減配されたことによる失望売りがだというのが一般的な見解です。
JTは減配しない、という投資家の期待を裏切ったということです。
長期でみても下落傾向
JT(2914)の株価の5年推移は以下のとおりです。
きれいな右肩下がり、一言で言うと、悲惨、ですね。
一時は5千円に届こうとしていた株価が半値以下となっています。
特に2016年半ばから2018年にかけてはひどいですね。
同時期はトランプラリーで総じて相場全体が上昇し、日経平均、すなわち日本企業の大半の株価も上がっていました。
そんな外部環境の中で取り残されているどころか下落しています。
さらに直近はコロナショックから急回復している日経平均へ追従することもできていません。
株価は本当にグズグズで、JTホルダーの怒りの声が聞こえてきそうですね。
株価は割安な水準
次にJTの株価水準をファンダメンタル指標の点から見てみましょう。
PER(割安性) | 13.55倍 |
PBR(健全性) | 1.62倍 |
ROE(利益の効率性) | 12.00% |
自己資本比率 | 46.90% |
PERやPBRといった指標は割安性を測る際によく用いられます。
PERは日本企業の平均の15倍以下なら、PBRは2倍以下は割安と言われています。
個人的には、特にPERの数値が低いのが目に付きますね。
少し荒っぽいですが、PERが低いということは、出してる利益の割には株価低いよね?という状態です。
割安だから株価が上がるのであれば、これほど簡単なことはなく、実際僕も割安株を狙って結構な損をしています。
成長性を市場に評価されていないとみることもできる指標です。
それでも現在のJTの株価はかなり割安な水準にあるということは頭の片隅に置いておきましょう。
自己資本利益率(ROE)は5%で合格点と言われる中、優秀な数値ですね。
自己資本比率も高いですので、後述する海外企業の買収による「のれん」は懸念の種ではありますが、倒産の危険性はないと言ってよいでしょう。
JT株は買い時と思います
僕は株価推移の観点でもJTは買い時のように思います。
正確には買い時というか、相場を牽引してきたハイテク株等がコロナバブルで過熱感があって手を出すのが怖いので、相対的に魅力的な水準に見えるという感じです。
上がれば下がるのが株価というもので、実体経済を伴わずに日経平均が3万円に到達するなか、有識者の中でも市場全体のリセッションが近いとする声が多いです。
もちろん実際に日経平均が暴落したりするかどうかは誰にもわかりません。
ただ、それを踏まえてリスクとリターンを秤にかけた時、消去法的にJTの株が魅力的にみえる、そういうタイミングに思います。
小難しく書きましたが、いくらなんでも売られ過ぎだよね〜、ってことです。
JTの配当推移
JTに投資している人の半分以上は、安定かつ高配当な配当金目当てだと言っても過言ではありません。
JTは言わずと知れた国内有数の高配当企業で、今回の減配まではNo.1の配当王でした。
配当推移は以下のとおりで、2020年の決算発表と同時に、翌期の配当金は1株あたり130円とすることを公示しました。
去年が154円ですから、10%以上の減配です。
過去一度も減配したことがなかったので、投資家との暗黙の了解が破られたという感じで、これが直接的な株価急落の引き金になったとされています。
JTの配当、優待込みでの利回りは
JTは減配されたとはいえ、依然高配当であることに変わりありません。
配当金が1株あたり130円ということは、株価1900円で計算すると利回り7%弱あります。
これは日本企業でTOP3の水準です。
さらに株主優待で自社グループ商品2,500円相当がもらえます。
19万円の投資金額で、配当金と優待込で毎年15,500円の不労所得が得られます。
極端には10年ちょっと倒産さえしなければ、元をとれるということです。
余談ですが現在の利回りTOPはエイベックス(Avex)ですが、こちらは潰れそうなので投資する気がしませんね。
高すぎる配当性向
JTの株価が急落した要因の一つとして配当性向が高すぎるという点が指摘されています。
そもそも配当性向って何?と思われるかもですが、単純には、利益の何%を配当金に充てているかを示すものです。
この配当性向が、2020年は88.1%で、利益のほとんどを株主に還元しているということです。
会社は株主のものという米国式の考え方が一般的になりつつはあるものの、もはや誰のために働いているか分かりませんね。
これに対しJTは決算資料で次のように配当に対する方針を示しました。
中長期の利益成長を実現することにより株主還元の向上を目指す。
資本市場における競争力のある水準として「配当性向75%」を目安とする。
日本たばこ産業2020年12月期決算短信より
去年は、「1株当たり配当金の安定的・継続的な成長」を掲げていました。
これは、今年からは利益が思うようにでなければ、さらなる減配も辞さない、と名言したということです。
これは大きな方針転換と言えるでしょう。
もしかすると、直接の減配よりこの方針表明が株価下落に直接的な影響を与えたのかもしれません。
減配リスクは普通の企業では当たり前ですが、ついにJTもメスを入れましたね。
そうは言っても、個人的には、これ以上は安易な減配はしないと思ってます。
ここで少し余談をはさみますが、JTの株は少し特殊で、財務大臣が1/3保有しています。
ひとむかし前まで、JTの社長は国税庁長官のあがりのポストでした。
JTの発行株数から計算すると毎年、約1,000億弱くらいの配当金が国の収入になっていますし、天下りは今なお続いています。
多分ですが、天下り官僚の大きな仕事はJTの配当を減らさせないことだと思われるので、こういった圧力も働くんじゃないかなと推測していて、株価の底値を下支えするかもですね。
JTの業績、将来性
ここまでJTの現在の株価水準や配当についてお伝えしました。
今の株価や配当の水準であればJTに投資するのはありだと思っています。
ただ、先進国の健康指向をはじめ、誰の目にもタバコ株は落ち目という印象は僕にもあります。
投資は成長産業にすべきというのが鉄則ですので、その意味ではJTは魅力的ではないと漠然とは思うのですが、感覚で語っても意味がありませんので、投資対象としてJTの将来性を少し考えてみた内容をお伝えします。
売上高2兆円のグローバル企業
まずは現在のJTの売上高や利益率を決算資料から整理してみました。
2020年 | 前年度比 | |
売上高(億円) | 20,926 | ▲3.8% |
営業利益(億円) | 4,691 | ▲9.7% |
純利益(億円) | 3,103 | ▲10.9% |
売上高の2兆円というのは、日本企業全体のTOP70くらいに位置します。
一方の営業利益は5千億弱と、これはTOP10くらいです。
コロナの影響で減収減益とはなっていますが、やはりタバコ産業の利益率はかなり高いことが分かります。
引用は割愛しますが、あれだけの配当金を出しながらもフリーキャッシュフローもしっかり確保されています。
正直、これほど収益性の良い会社は国内でほとんどありません。
それでもここ最近ずっと株価ズルズルなんで相場って本当にわからないですね。
海外売り上げが6割以上
意外かもしれませんが、JTの売上げは海外比率が6割以上とグローバルな会社です。
海外でセブンスターやメビウス吸ってる人なんているの?と思われるかもですが、それはほとんどいません。
JTはとくに2000年代に海外の有力なタバコ会社を積極的に買収(M&A)しました。
wikipediaでざっと調べただけでも以下の実績があります。
1999年 | RJRナビスコ(米国) | 9,400億円 |
2007年 | ギャラハー(イギリス) | 2兆2千億円 |
2011年 | ハガー(スーダン) | 350億円 |
2012年 | グリソン(ベルギー) | 462億円 |
2016年 | レイノルズ・アメリカン(米国) ※アメスピ等販売の事業提携 |
約6,000億円 |
2017年 | マイティー・コーポレーション(フィリピン) | 約1,048億円 |
2017年 | カリヤディビア・マハディカ スーリヤ・ムスティカ・ヌサンタラ (インドネシア) |
約1,100億円 |
2018年 | ドンスコイ・タバック(ロシア) | 約1,900億円 |
2018年 | アキジグループ(バングラディッシュ) | 約1,645億円 |
特にヨーロッパのタバコシェアが大きかったギャラハーの買収は国内過去最大のものです。
これにより世界第4位のタバコ会社へと成長しました。
M&AはJTのお家芸と言われるほどに成功事例が多いです。
国内のタバコ需要がジリ貧になることを予想し先手を打った当時の経営陣は本当に凄いと思います。
JTにとって国内売上はこれからも比率を下げるのは間違いなく、JTの業績や今後の株価を予想するなら世界の動向に目を向けないとですね。
世界的にみれば喫煙者は減ってない
いろいろ調べてみましたが、喫煙率は2000年以降減少しているとの報告はあるものの、喫煙者数に言及した資料は多くありません。
WHOのたばこ規制の方針は年々厳しくなっていて、先進国では効果がでていますが、世界的には喫煙者は減っていないとも言われています。
東大の論文によれば、2025年までに多くの国でたばこ使用の削減目標が達成される見込みは低いとされています。
これの大きな要因はアフリカや中東をはじめとした新興国の爆発的な人口増加です。
この統計が正しければサブサハラ・アフリカ地域では、年間3千万人くらいのペースで人が増えています。
増加分だけで数年で日本の人口超えますね。
また、先進国より新興国の方が喫煙率が高いのだろうというのは、飛行機が禁煙でなかった時代を知っている団塊の世代の方であれば納得いくものでしょう。
少なくとも、日本やアメリカで喫煙率下がってる=JTオワコンみたいな安直な考え方は、ナンセンスというものです。
加熱式たばこの出遅れは痛い
JTの株価を占う上で、僕が投資をためらう理由の大きなところは加熱式たばこの出遅れです。
JTはploom techという加熱式たばこを販売していますが、フィリップモリスのiQosやBTIのgloに大きな溝を開けられています。
JTの決算資料でも、市場の10%も取れていないと白状しています。
健康への影響に配慮した加熱式タバコのRRP(Reduce Risk Product)は、先進国では間違いなく市場の主流となります。
僕も喫煙者なので実感がありますが、身の回りを見れば一目瞭然ですよね。
プルーム エスを新たに市場に投入しましたが、これが巻き返しの起爆剤となるかは注目したいです。
JTI統合と大規模なリストラ
JTは再編を進めていて、たばこ事業はスイスのジュネーブに拠点を置くJTインターナショナル(JTI)に集約する方針を示しています。
さらに国内の生産拠点も九州工場をはじめ多数を閉鎖し、正社員約6500人のうち、15%に当たる1000人の希望退職をつのり、パート従業員も1600人の退職勧奨を行うとしています。
これらのリストラクチャーは減配のケジメのようにも見えますが、このような決断を即座に実行するのはすごいですね。
自分がJTの社員だったらと思うとゾッとしますが。。
世界的な大麻合法化の影響がリスク
最後になりますが、JTの将来性への一番の懸念は、個人的には大麻合法化の流れです。
ご存知のとおり、世界的には大麻を合法化する大きな流れがあります。
僕はもちろん大麻をやったことはありませんが、タバコの代替品となりうる可能性を懸念しています。
合法なもので依存性が高く代替品が無いというのがタバコビジネスを成り立たせている根幹で、しかもそれを独占して商売とすることが認められているというのがJTの強みです。
まぁ直近数年は無いでしょうが、仮に大麻が日本で合法化されたとしたらJTもその利権を取りに動くでしょうが、現状は医療機関しか扱えないなどの制約もあり、このあたりの動向は注目しておくべきですね。
まとめ
今日はJTの減配からの株価急落をうけ、同社の株価について僕なりに思うところをまとめてみました。
後半少しとりとめない感じになりましたが、僕はJTの株は買い時ではないかと見ていて、とりあえず100株だけ買ってみました。
連続増配の神話が崩れたと、市場では配当金狙いの投資家の撤退が後を絶たないですが、今こそむしろ投資初心者におすすめの銘柄ではないかと思っています。
もちろん株価が短期間で2倍になったり、テンバガーなんて狙える株ではありません。
それでもJTの株価は比較的底値が固いと思うので、こういう株で、相場の雰囲気を勉強するには良いように思います。
もう少し定量的にタバコ株(PM/MO/BTI/JT)を比較した関連記事です。実は僕は数年前からBTIに投資していて、結構資産減らしてます。