非常に値動きの荒い日本の株式市場において、商社株は比較的安定した株価推移と高配当を理由に長期投資家に人気の銘柄です。特に人気なのが5大総合商社なのですが、その中でも近年特に力強いのが伊藤忠商事(8001)です。今日は同社の決算情報などをもとに今から株を買うべきかどうか分析してみました。
商社株は比較的安定した株価推移と、なんといってもその高配当が魅力です。
株価の未来は誰にも分かりませんが、配当金や株主優待というはっきりと目に見えるインセンティブは株を購入する後押しとなります。
商社株は特に日本株の中でも配当金が高い傾向にあり、特に長期投資家に好まれている銘柄です。
伊藤忠商事も実に4%に近い配当を設定しています。
とはいえ、株価そのものの値上がりによるキャピタルゲインも期待したいのが投資する側の本音です。
僕は伊藤忠商事の株の1口100株だけ保有していて、買い足したいと考えていて、今買ってもいいかどうか、自分で信じられる根拠を得られるかどうか、一度冷静になるため同社の業績などを確認し、今後を予想してみたいと思います。
結論からいうと僕は伊藤忠商事に期待し、追加投資を決心しました。
今日は、そう考えるに至った理由について書いていきたいと思います。
目次
伊藤忠商事の株価推移
過去10年の株価推移です。
1日単位では「商社株が売られた」などと下がることもあり、1年以上停滞することもありますが、長期スパンで見ればきれいな右肩上がりといってよいでしょう。
10年前から比べると約3倍くらいになっていますね。
逆に、ここ数年でトランプラリーなどをきっかけに株価が一瞬で数倍になった銘柄もあったので、10年かけて2,3倍という水準は、短期的なキャピタルゲインを狙う人には物足りないと感じられているのも事実です。
比較的値動きが緩やかな理由として、商社株はいずれも時価総額も大きく、デイトレーダーのような個人投資家がおもちゃにできないということもあるでしょう。
1年で株価が10倍になったりする株、いわゆるテンバガーと呼ばれる銘柄は中小型株に多く、個人投資家にはそっちの方が好まれています。
浮き沈みが激しい日本の株式市場においてこのような値動きはとても珍しいですね。
このような株価推移は優良な米国株のそれに似ているように思います。
この株価水準が上がりすぎとみるか、まだ上がるとみるか、今後を予想するのが投資の面白いところです。
伊藤忠商事の配当推移
次に伊藤忠商事の配当の推移を示します。
こちらも右肩上がりですね。現在の利回りは4%近く、これは極端に言えば2,30年同社の株を持ち続ければ配当で元本が回収できてしまうということです。
ちなみに日本企業の平均で2%程度と言われています。
これは有名なことですが、日本株の中では、商社株は圧倒的に高配当です。
話が小難しくなるので詳しくは割愛しますが、配当性向は30%を切っていますので、安易に減配することもないでしょう。
簡単に言うと、業績に対して無理して配当を捻出している訳ではない、という状態です。
商社株を比較した関連記事です。
他の総合商社である三井物産、住友商事、三菱商事、丸紅の4社も高い利回りをキープしていて、配当利回りだけでみれば伊藤忠商事より他の4社の方が上です。
ちなみに株主優待はどこも設定していません。
伊藤忠商事の業績
続いて同社の決算資料から売上高と営業利益を数年分グラフにしてみました。
数字が大きすぎますね。さすが日本を代表する巨大企業です。
売上高は日本のトップ10入り
昨年度の売上高は10兆円超えと、数年前の倍近くなっています。
この要因は大きくは2つで、1つはIFRS会計基準に合わせたことと、もう1つがファミリーマートの子会社化により連結決算の対象となった影響です。
これにより同社の売上高は日本の上場企業全ての中でトップ10入りしています。
純利益も過去最高
伊藤忠商事は売上だけでなく利益率も好調で、純利益も3期連続で過去最高を更新しています。
総合商社の根っこには資源ビジネスがあり、ここ数年の好業績の背景に資源高による恩恵があります。
ただ、伊藤忠商事は上のファミリーマートの子会社化にみられるように、他の総合商社より脱資源ビジネスを進めていて、これらも上手く利益に結びついているようです。
日本企業の多くが苦戦している中、利益を出し続けているという点は売上高の大きさ以上に価値があります。
ファンダメンタルズ分析
売上高や営業利益だけでは、正直、大きすぎる、ということしか分からないので、投資判断に用いられる各種指標を分析するために整理したのが下の表です。
1株当たり純利益(EPS) | 324円 |
株価収益率(PER) | 6.34倍 |
株価純資産倍率(PBR) | 0.86倍 |
自己資本利益率(ROE) | 17.90% |
自己資本比率 | 26.20% |
利益剰余金(百万円) | 2,659,781 |
有利子負債(百万円) | 2,971,169 |
この数字だけ見てもいいのか悪いのか分からないと思いますので、それぞれ簡単に解説します。
ポイントは以下の3点です。
1.株価は上がっているが依然割安水準
株価の割安性を示す最も有名な評価尺度としてPER(株価収益率)があります。
これは株価をEPS(一株あたり利益)で割った数字で、日本の一般的な企業で15倍前後と言われる中、同社は6倍台という驚きの低さです。
分母が利益ですので、数値が小さいほど、利益の割には株価が低い=割安な状態であるといった見方がされます。
割安なら株価が上がるというのならそんな簡単なことはないですし、商社株はずっと割安という傾向がありますが、現在の株価がこういう水準にあるということは覚えておいて良いと思います。
割安性を考える際に参考にしてほしい関連記事です。
2.ROEが非常に優秀
ROE(自己資本利益率)はどれだけ株主の投資から効率よく利益を生み出しているかを見る指標で、一般的に10%を超えると優秀だとされています。
大企業は体が重たくなりますので、利益率も低くなりがちなのですが、伊藤忠ほどの大企業が17%もの数値を叩き出しているというのは驚きです。
数値の出し方に財務レバレッジの影響もありそうで、ここはちょっと素人には目利きが難しいですが、きちんとコントロールされているようですので、素直に素晴らしい数値と見てよいと思います。
3.財務は健全
企業の健全性の指標としてPBR(株価純資産倍率)があり、1倍を切ると健全とされる中、同社は0.8倍台です。
PBRの計算式は株価をBPS(1株あたり純資産)で割って求められます。
PBRが1倍を切った状態で株を買うということは、仮に会社が今この瞬間に解消しても、購入した株価相当の資産が戻って来るため損をしない、といった表現が用いられることがあります。
これはちょっと極端な表現ではありますが、PBRが1倍以下ということは株価の下値が堅いと見られ、割安性の判断基準としても使われます。
自己資本比率も30%弱ありますし、有利子負債も利益剰余金とバランスされているので問題ありません。
伊藤忠商事の事業構造
次に伊藤忠商事がどんな事業を営んでいるのかを確認していきます。
同社の売り上げ比率から作成したのが下図です。
総合商社はコングロマリット化が進んでいて様々なビジネスを展開しているので細部は素人に追うことは難しいですが、簡単に特徴を整理します。
非資源ビジネスに注力
伊藤忠商事の特徴の1つとして、他の総合商社に先駆けて非資源ビジネスに力を入れているというところです。
総合商社の根底には原油や鉄鉱石といった資源ビジネスがあります。住友商事、三菱商事などは売上げの半分以上が資源関連です。
伊藤忠も原油取引などのエネルギー関連事業の売上が27%あります。
ただ上の図のとおり、昨年の売上比率は食料関連が37%とポートフォリオが大きく変化しています。
食料関連が伸びたのはファミリーマートの子会社化によるものです。
資源ビジネスは外部環境による影響を強く受けるため、各社非資源ビジネスへのシフトを戦略として掲げています。
そんな中でも伊藤忠は他社より一歩先駆けており、これが同社が非資源ビジネスの雄と言われる所以の1つです。
伊藤忠商事の株価の今後を予想
伊藤忠商事の株を購入するかどうかを考えるためここまでいろいろ見てきました。
株価は現在でも割安で業績も好調であること、他社に先駆け非資源ビジネスにシフトしているアグレッシブな会社であること、という点から、僕は追加投資を決心しました。
最後に今後の懸念点、というか動向を注視した方がよいと思う点をあげます。
ファミリーマートの業績の影響大
上のとおりファミリーマートを子会社化したことにより、こちらの業績が伊藤忠商事の業績に直結するということです。
商社の原材料の調達力を生かしたシナジー効果なども期待できるでしょうが、コンビニ業界は激戦ですので、伊藤忠商事の株を買うならばコンビニ業界の動向にも注目した方がよいでしょう。
僕はここに期待している反面、心配な点でもあります。
これは単純に、同じ距離にセブンとファミマあったら、僕はセブンに行くからです。理由はただなんとなくですが、伝わると思います。
デサントに対する敵対的TOBの影響
デサント(DESCENTE)はスポーツウェア専門メーカーで、上のロゴは皆さんも目にしたことがあると思います。
伊藤忠は総合商社の中でもアパレルが強いことで有名ですが、同社がこのデサントを敵対的買収(TOB)しました。
日本企業間で敵対的買収が成立したのは初めてのケースだと言われています。
ニュースなどを流し見した限り、デサント側の韓国に軸足をおいた事業展開の意向に対し、伊藤忠側は中国市場へ早期参入を目指していて、この考えの食い違いが埋まらなかった、という感じです。
このTOBは決着しましたが、デサント側の9割が反対していたとのことで、義理人情を重んじる日本人の気質が新しい経営体制についてくるかどうか、キーマンが抜けてしまわないかが気がかりです。
どんな事業も優秀な人材に支えられているのは間違いなく、キーマンと呼べる人はその中でも片手で数えるくらいしかいないものです。
まぁこんなこと僕が言うまでもなく両社しっかり考えていますし、敵対的買収が良いか悪いか、成功するかしないかは置いておいて、こういう欧米企業のような決断もできる会社、という点は株の購入を検討している僕としてはプラス材料です。
まとめ
今日は伊藤忠商事(8001)株の購入を検討するために同社の決算情報などをもとに業績や割安性などを分析してみた内容をお伝えしました。
総合商社は非資源ビジネスの拡大の成否が今後の株価へ一番大きな影響を与えそうですが、そんな商社株の中でも伊藤忠商事が一番前衛的な会社という印象を持ちました。
業績は好調で、現在の株価水準でも割安、また安定した高配当ということで、僕はもう100株購入したいと思います。
もうちょっと強気に買い増ししたいのですが、どうしても直近の株価が上がりすぎに見えることと、ファミリーマートがセブンより魅力的に思えない点が気になってしまい、次のタイミングは様子見したいと思います。