JFEホールディングス(5411)と日本製鉄(5401)は日本を代表する鉄鋼メーカーです。鉄は「産業の米」とも呼ばれ、ほとんど全てといっていいほどの製品に使用されています。そんな業界の中、日本は粗鋼(炉で精錬された加工前の鋼)の世界の生産量第2位です。これを牽引するのが両社なのですが、株価が奮いません。今日は両社の業績や株価の分析してみた結果をお伝えします。
かつて日本の高度経済成長を支えたといっても過言ではない鉄鋼業ですが、IT全盛の現在においてその存在感はかなり薄れているように感じます。
建築や自動車などには鉄やアルミ、銅やステンレスといった素材が必要で、いつの時代も需要がある業界であるのは間違いありません。
それでもなんとなく古いイメージがしますよね。僕もそんな印象で、投資対象から最初から外していました。
そんな鉄鋼業ですが、業界全体として株価が下落傾向にあり、いくらなんでも売られ過ぎじゃないの?と思う水準になってきている気がしています。
今日は鉄鋼業を牽引する2大巨頭であるJFEホールディングスと日本製鉄(旧:新日鉄住金)の業績や株価を分析してみたいと思います。
目次
鉄鋼業界の動向
両社の業績や株価の確認の前に業界の動向やマクロな市場環境、世界シェアなどをみてみたいと思います。
遠回りなようですが、僕は株を買う際には可能な限り業界動向を調べるようにしています。
いかに優れた企業でも市場環境が逆風であれば利益を上げることは困難だからです。
鉄鋼需要は世界的に拡大傾向
鋼材の需要は世界規模で需要が増加傾向にあります。
国内は都市再開発や東京オリンピックに向けた施設の整備など、建設業を中心に鉄鋼材需要が高まっています。
世界鉄鋼協会などによれば2019年の世界需要は3年連続増加の16億8100万トンになるとのことです。
五輪後の国内需要に不安はありますが、鉄鋼市場自体は緩やかながらも成長を続けていると見ることができます。
世界の粗鋼生産量の約半分が中国
世界の鉄鋼業界のランキングをビジネス+ITより引用させて頂きます。
世界1位は欧州のアルセロール・ミタル社です。同社は欧州系企業が合併を繰り返した会社です。
日本製鉄が2位、JFEホールディングスが9位と善戦していますが、10位内のほとんどを中国企業が独占しており、中国企業で世界の生産量の約半分を占めています。
こういう言い方はあれですが、中国は何でもありですからね。
世界市場では価格競争が非常に厳しいことが想像されます。
ただし、中国政府が粗悪品を作る企業の排除に動き、2013年頃から中国の生産量も横ばいとなってきています。
資源価格の高騰、米中貿易摩擦や関税の影響が懸念材料
石油や鉄鉱石をはじめとする天然資源の価格は世界情勢の影響を強く受けます。
需要がある資源は当然高くなりますし、資源高は鉄鋼業界の利益に直撃します。
さらに輸出が要の鉄鋼業ですが、ご存知のとおりトランプ大統領による関税増加策などにより経済摩擦が懸念されます。
さらにはもちろん為替の影響もあります。
資源価格による製造コスト変動、関税などによる売上げ影響、両方にきいてくる為替と、鉄鋼業界は世界情勢の影響を強く受ける銘柄であることが分かります。
自社の努力ではどうにもできない外部要因で業績が左右されるの業界の銘柄は手を出しづらいですね。
JFEホールディングスと日本製鉄の成り立ち
外部環境、業界分析はこれくらいにして、今日の記事の対象の2社の概要を簡単に紹介します。
ちなみに両社とも日経225に採用されています。
日本の鉄鋼メーカーとしては両社が圧倒的で、神戸製鋼所(5406)や日新製鋼(5413)が続きますが、売上げ高などは桁違いです。
日本製鉄(5401)
日本製鉄は国内最大手の鉄鋼メーカーです。
「新日鉄住金」の方が耳馴染みがあるかもしれません。2019年4月1日から社名変更されました。
ルーツは小学校の社会の教科書にも出てきた有名な「八幡製鉄所」です。
2012年に新日本製鉄と住友金属工業の合併により新日鉄住金が誕生しました。
後述のJFEホールディングスもそうですが、この業界は吸収合併や経営統合が多いです。
世界に対抗していくためには国内で消耗戦繰り広げている場合じゃないという経営判断でしょう。
同社の強みは高級鋼板です。やはり日本企業は品質で勝負ですね。
JFEホールディングス(5411)
JFEホールディングスは国内2位です。
JFEホールディングスはホールディングスの名のとおり、持ち株会社のグループ企業なのですが、もとを辿ればNKK(日本鋼管)と川崎製鉄が2001年に経営統合して誕生したものです。
現在はグループ傘下に、JFEスチール、JFEエンジニアリング、JFE商事、ジャパン・マリンユナイテッドを有します。
日本製鉄が鉄鋼中心なのに対し、こちらは多角化が進められています。
鉄鋼としてはJFEスチールが担い、ジャパン・マリンユナイテッドは造船会社です。
鉄鋼という素材からその用途である造船まで、一気通貫したビジネスの連携メリットを出すのが狙いと思われます。
両社の業績・株価指標
前置きが長くなりましたが、両社の業績などを決算資料などをもとに比較していきます。
昨年度の業績です。
(百万円) | JFEホールディングス | 日本製鉄 |
売上高 | 3,873,662 | 6,177,947 |
経常利益 | 209,313 | 248,769 |
純利益 | 163,509 | 251,169 |
ROE | 8.60% | 7.90% |
売上高はすごいが利益は少ない
両社とも日本を代表する企業だけあって売上高はすごいですね。
日本製鉄の売上高は実に6兆円を超えており、これは日本企業全体の20位近辺です。マイナーなイメージとかいってすみませんという感じです。
一方で両社とも利益率はあまり高くなく、ROE(自己資本利益率)も優良の目安である10%を下回っています。
両社の決算資料を確認したところ、原価比率が売上高の約9割を占めるコスト構造となっていました。これでは利益が出しづらいですね。
逆に資源安に傾けば利益が一気に増える可能性もあります。
テクニカル指標分析|かなり割安な部類
続いて株価指標です。
JFEホールディングス | 日本製鉄 | |
PER | 7.1倍 | 7.4倍 |
PBR | 0.6倍 | 0.5倍 |
自己資本比率 | 41% | 40% |
とんでもなく割安な部類ですね。商社株以外でこんな数字はみたことないです。
割安性の指標であるPERは株価を1株辺り利益(EPS)で割って算出されるのですが、15倍程度が日本企業の平均とされるなか、10倍を切っています。
PBRも1倍を切っていれば安泰とされており、自己資本比率も40%以上と健全と言ってよい水準です。
もちろん割安だったら株価が上がるという単純なものではありませんし、低PERということは市場からその将来性に疑問が持たれていると見ることもできます。
それでもいくらなんでも売られ過ぎじゃないかな、と個人的には思います。
株価の比較|両社とも底入れか
上のとおり割安ということは現在の株価はかなり下がっているはずです。各社のチャートを引用します。
・JFE |
・日本製鉄 |
株価推移も両社よく似ていますね。資源価格等の影響を同等に受けているのでしょう。
過去20年スパンで見ても底に近いところまで下落しています。
2000年代の中頃には8千円を超えていた両社の株価ですが、リーマンショック後くらいに千円台まで急落しました。
短期的には上がり下がりありますが、実に10年以上株価は低迷していると見ることができます。
さらに日本製鉄はつい数日前に10%近く急落、JFEホールディングスも同日7%下落と、年初来最安値を更新しています。
米中の貿易摩擦による関税増加懸念などが理由です。
それでもここまで売り込まれるのは行き過ぎ感があるように思えて仕方ありません。
配当金・利回りがとても高い
この2社は配当金が高いです。両社を比較整理したのが下の表です。
JFEホールディングス | 日本製鉄 | |
配当金 | 95円 | 80円 |
配当利回り | 4.75% | 3.89% |
配当利回りも高く、配当狙いの銘柄としては魅力的に見えます。
しかも株価が下落傾向ですので、現在は両社とも10万円台の投資金額で年1万弱の配当金がもらえると考えると、利回りがとんでもない水準になってきています。
もちろん業績悪化による減配などはあり得ますが、赤字というわけではありませんし、配当を停止するまではしないでしょう。
ちなみに株主優待はどちらも魅力的とは言えません。
JFEは100株保有で抽選で工場見学です。これが欲しいのはプラントマニアくらいでしょう。
日本製鋼も500株でカレンダー、1,000株で工場見学と、こちらもあってないようなものです。
鉄鋼業の今後は?
最後に鉄鋼業界のこれからについて考えてみたいと思います。
目先は5輪需要があるが長期的には苦しい業界か
5輪や都市再開発など、目先の鉄鋼需要は国内も旺盛で、ここ数年の売上は安定するでしょう。
ただ、人口減少が避けられない日本で建設ラッシュがいつまでも続くとも思えませんし、やはり世界市場での優位性確保が必須です。
製鉄技術も確立されつつあり、中国企業に加え、新興国でも新たな鉄鋼メーカーが台頭してくる中、価格勝負が避けられません。
高コスト体質の日本の大企業にはさらに辛い状況になってくることが想像に難くありません。
深刻な職人不足
鉄鋼業界はエンジニアの人手不足に悩まされているようです。
たしかに今のご時世、鉄鋼かITかといったら若い人はIT業界選ぶでしょう。
近年はベテラン技術者の技術継承が課題で、若手が育たないと生産効率は落ちますし、技術的な優位性を保っていくのが難しくなります。
品質の日本ですので、ここで負けると世界で勝ち目はありません。
まとめ
今日は鉄鋼業界の2強であるJFEホールディングス(5411)と日本製鉄(5401)の株価や業績などを調べた結果をお伝えしました。
両社とも日本を代表する企業であることは間違いありませんが、思うように利益を上げられず苦戦しているのが分かりました。
また外部環境による影響を強く受ける業界であることがわかり、現在は貿易摩擦懸念など不透明要因が多く、投資しづらい状況ですね。
とはいえ、売られ過ぎであるのは間違いなく、配当もかなり高いですので、100株くらい長期保有してみるのはありかなと思います。