大手電機メーカー8社の株価、業績を比較|高度経済成長を牽引した業界の将来性は?

誰もが知る大手電機メーカー8社をまとめて電機8社と呼ぶことがあります。いずれも超が付くほどの巨大企業です。ひと昔前は高度経済成長の牽引役として認識されていましたが、近年は逆に日本経済低迷の代名詞となっています。今日はそんな電機8社の株価や業績を比較、分析してみたいと思います。

大手電機メーカーの業績や株価は日本経済の歴史を象徴していると言えると思います。

1960年代は高度経済成長を背景に、白物家電やテレビ需要などによる各社の飛躍の時代でした。

一方で、1980年代の日本経済のバブル崩壊、2000年代前半にはITバブル、後半にはリーマンショックにより大打撃受け、株価も低迷したまま、アベノミクスによる業績回復も、今まだその道半ばという状況と見ることができます。

近年はシャープの東証2部降格からの台湾企業である鴻海精密工業による買収や、東芝の不正会計事件にアメリカの原発会社の買収事業失敗からのメモリ事業売却など、総じて暗いニュースの方が目に付きます。

このような状況の中、有識者からは日本の電機メーカーは終わった、とか、将来性が無いなどと評されることがよくあります。

たしかにこの業界を取り巻く環境は楽観視できるものではなく、これらの意見には総論としては同意です。

ただ、各社状況はそれぞれですので一括りに語るべきではなく、また物事は感覚論ではなく数字で見るべきだと考えているため、今日は各社の決算資料をもとに比較する形で整理してみました。

電機8社の株価推移

さっそくですが株価の推移を見て行きます。下の表はマネックスより過去10年分の株価推移です。

・日立(6501)
・ソニー(6758)
・パナソニック(6752)
・三菱電機(6503)
・富士通(6702)
・東芝(6502)
・NEC(6701)
・シャープ(6753)

これだけの大企業でもとても荒い値動きをしています。日本株とはこういうものです。

特に2018年は米中の貿易摩擦懸念を背景に相場環境が悪かったこともあり、株価が急落している会社が多いです。

ソニーが一番成長している

過去10年というスパンで見るとソニーが一番成長しているように見えます。

ソニーには他の電機メーカに無い、ゲーム事業があります。

ゲーム関連銘柄筆頭のカプコン(9697)の業績確認と今後の株価を予想でも書きましたが、近年はeスポーツも盛んで、ゲーム市場は世界中で拡大している成長産業です。

また、PS4も好調で、ソフトメーカーからのロイヤリティという非常に収益性の高いビジネスモデルを持っているのは他社には無い強みですね。

日立三菱電機も下げる時は株価が半分くらいまで急落することもありますが、10年スパンでは右肩上がりといってよさそうです。

この2社は事業のポートフォリオが広いのが特徴です。

白物家電から原発、重電系システム、FAなど、大企業ならではの幅広い事業分野を持っています。

個々の事業には好不況の波がありますが、これをお互いに支え合っているイメージで、一つの事業に依存していない事業形態がこれら総合電機メーカーの強みと言えるでしょう。

長期的には株価は下落

一方で、ソニーの株価を過去20年まで伸ばしてみたのが下の図です。

アベノミクスで大分上げているように見えますが、20年前の1/3にしか戻っていないと見ることもできます。これはソニーに限らず各社同じ傾向です。

シャープにいたっては株価が1/20くらいになっています。

株価という視点では、これが大手電機8社の実情です。

業績の確認

次に各社の昨年度の決算資料から業績を比較してみます。

売上高、純利益

まずは売上高と純利益です。

売上高(百万) 純利益(百万)
日立 9,368,614 362,988
SONY 8,543,982 490,794
パナソニック 7,982,164 236,040
三菱電機 4,431,198 271,880
富士通 4,098,379 169,340
東芝 3,947,596 804,011
NEC 2,844,447 45,870
シャープ 2,427,271 70,225

売上高は日立が一番で、10兆円に届きそうな勢いです。

これは日本の全企業全体のトップ10に入っています。ちなみにNo.1はトヨタで30兆円規模です。

それはそれとして、この表からの気付きとして、昨年度は全社黒字ということです。

意外ですが、8社中NEC、SHARPを除く6社が過去最高純益となっています。

各社不採算事業の整理が進んたことも好決算の理由です。

ただし東芝は一昨年1兆円近い特別損失を計上していますし、稼ぎ頭のメモリ事業を売却しましたので、手放しで喜べる状況ではないのは明らかです。

営業利益、利益率

純利益は特別利益など、突発的な要因もありますので、本業での儲けである営業利益を見て行きます。

株主資本を如何に効率良く利益につなげているかの指標であるROEも併記します。

営業利益 営業利益率 ROE
日立 714,630 7.63% 11.6%
SONY 734,860 8.60% 18.0%
パナソニック 380,539 4.77% 14.4%
三菱電機 318,637 7.19% 12.6%
富士通 182,489 4.45% 17.2%
東芝 64,070 1.62% 689%
NEC 63,850 2.24% 5.3%
シャープ 90,125 3.71% 20.9%

日本企業では一般的に5%以上の営業利益率があれば合格、10%以上であれば優良とされています。

合格点は日立、SONY、三菱電機の3社です。

東芝はご存知のとおりですが、シャープも一昨年1千億円近い営業赤字を計上していますので、上の数字以上に実態は厳しい状況です。

NECも業績低迷が続いていますし、各社苦戦しているのが見て取れます。

製造業は材料費や人件費の高騰の影響を大きく受けるため、利益率が低くなりやすいという特徴がありますが、それにしても投資という観点では魅力的には見えない水準だと言わざるを得ません。

ファンダメンタルズ分析

次に株価指標で見て行きます。

自己資本比率

まずは自己資本比率です。

自己資本比率が低いということは、借金が多いということです。

一般的には40%以上が健全だと言われています。

自己資本比率
日立 32.4%
SONY 15.6%
パナソニック 27.1%
三菱電機 53.0%
富士通 34.8%
東芝 17.6%
NEC 31.2%
シャープ 19.80%

この表から、財務的に健全なのは三菱電機だけ、と見えます。

事業拡大のための投資などもありますので、必ずしも自己資本比率が低いことが悪いとは言えませんが、上の営業利益などを見る限り利益に結びついていないのは明らかで、各社あまり財務体質が良いとは言えません。

SONYの自己資本比率が思ったより低いですね。

割安性

次に株価指標として僕が割と重視している割安性を見て行きます。

株価を1株当り利益(EPS)割って求められるでPERは業種によって異なりますが、一般的に15倍以下が割安とされています。

同じくPBRは2倍以下が目安とされています。

割安であることは株価の上昇余地があることを示す一方で、市場からその成長性に疑問を持たれているという意味もあり、割安だから良い、というものではありません。

例えば銀行系の株価は、ずっと割安=株価が上がらない、という状況です。

あくまで目安です。

株価は4/5の終値で計算しています。

株価 PER(倍) PBR(倍)
日立 3,775円 10.26 0.83倍
SONY 4,662円 13.28 1.79
パナソニック 991円 15.81 1.98
三菱電機 1,544円 13.44 1.55
富士通 7,843円 8.0 1.12
東芝 3,755円 2.5 1.99
NEC 3,825円 16.98 0.74
シャープ 1,294円 22.62 3.95

割安性でみると、日立が一番お買い得に見えます。PER,PBRともに平均を大きく下回っています。

その他の各社もまぁまぁ割安といって良い部類だと思います。

一方で、割安であるということは、上で書いたとおり市場から成長性が無いと見られているという見方もできます。

なお、一見すると東芝も割安に見えますが、事業売却に伴う特別利益の影響ですので、同社に関しては割安云々を議論する状況ではありません。

このことからも割安性だけを基準とした投資は危ういということがわかりますね。

配当、利回り

続いて配当、利回りです。

配当利回り 配当金 配当性向
日立 1.94% 15円 20.0%
SONY 0.53% 27.5円 7.1%
パナソニック 1.88% 30円 29.6%
三菱電機 2.35% 40円 31.6%
富士通 1.67% 11円 13.3%
東芝 0% 0円 0.0%
NEC 2.00% 60円 34.0%
シャープ 0.31% 10円 9.4%

う〜ん、イマイチな数字です。

東芝のゼロ配当はしょうがないですね。

2%超えているのはNECと三菱電機だけです。

配当金は株式投資の醍醐味の一つで、特に長期保有する場合には重視すべき項目です。

特に成熟した企業は株価の値上がりによるキャピタルゲインが狙えない代わりに、配当による株主還元が重視されます。

P&Gやコカコーラなど、米国株の大企業は3%以上が当たり前です。

米国株と比較するのは酷だと思いますが、配当狙いという観点でも魅力的では無いですね。

電機大手8社の将来性は


ここまで各社の業績や株価指標などをみてきました。

最後に電機メーカーの今後を占うにあたり、僕なりのポイントを整理したいと思います。

ブランド力の低下が止まらない

日本の製造業の技術力は世界一だと思っています。

それでも日本メーカーのブランド力の低下に歯止めがかかりません。

スマホではソニーのexperiaが頑張ってますが、iphoneやHuaweiのシェアに遠く及びません。

NECのノートパソコンLAVIEなどはDELLやhp、アップルにおされ、もはや知名度は皆無です。

家電もSAMSUNGの液晶テレビやダイソンの掃除機など、その分野に特化したブランドの前に完敗しています。

技術のコモディティ化が進む現代において、コスパという観点で中国企業をはじめ海外勢にかなり押されていて、この流れは止まりそうにありません。

モノ消費からコト消費へとトレンドの変化が進んでいる現代において、如何に付加価値の高いサービスを提供できるが重要となっています。

各社変わりつつあるといっても、物を作って売るのが商売の基本となる電機メーカーにはかなり厳しい時代でしょう。

大きすぎる企業はスピード感がない


電機8社はいずれも巨大企業です。

シャープ以外は全て、グループ従業員数が10万人を越えています。

これら超巨大企業ほどではありませんが、僕はそこそこ大手メーカーに勤めており、大企業の弱点として、ビジネスへのスピード感があげられると考えています。

アメリカのベンチャーのように、ビジネスが上手くいかなかったから会社畳んで次の事業を考えるなんて訳にはいきません。

大企業には多くの従業員がいて、彼らを路頭に迷わせるわけにはいかないからです。

このスピード感の無さは変化の激しい今の時代においてかなりのウィークポイントです。

働き方改革の影響

政府が推進する働き方改革は着実に実行され、2019年度から法律による残業規制まではじまりました。

僕は働き方改革に総論賛成なのですが、これによる企業への負の影響も見えてきています。

唐突ですが、企業の人材は大企業、中小企業問わず2:6:2の法則が当てはまると言われます。

2割の優秀な人材、6割の普通の人材、2割のダメな人材、という構成になるという説です。

反感を買いそうな表現ですが、企業を成長させているのは、上位2割の人達です。

働き方改革により、猛烈に頑張っていた優秀な2割の社員は以前より働くことができなくなり、ダメな社員は今までどおり、という効き方をしているように思います。

こんなことしてたら当然企業の力は衰えます。

特に大企業はみな口を揃えて業務の効率化を進めるとしていますが、精神論的な施策が多く目につきます。

働き方改革の過渡期なのでしょうがないことだと理解はしていますが、大多数の企業の直近の業績には悪い方向に影響が出るのは間違いないと僕は見ています。

成長の鍵はAI/IoT市場を取り込めるか

僕が言うまでもなく、近年のテクノロジーの進歩には目を見張るものがあります。

人の顔や声まで自動識別する人口知能(AI)の登場や、機械学習、ディープラーニングといった技術は様々な分野に応用されるようになっています。

また、クラウド化によって全てのものがインターネットで繋がっているといっても過言ではない現代においてIoT(Internet of Things)はサービスのあり方に変革をもたらしています。

これら情報産業では富士通NECが強みを持っています。

両者とも上で調査したとおり近年の業績は芳しくありませんが、伸び代はあるんじゃないかと思います。

おすすめの銘柄は

最後にここまで調べてみた内容を踏まえて僕のおすすめ銘柄を書きたいと思います。

結論としては、残念ながら、ありません。

成長性ではソニー、企業の財務体質は三菱電機が良さそうに思いましたが、いずれも光るものがありません。

ソニーはゲームという高い収益性を持つ事業がありますが、それならカプコンとかKlabとか、ゲームに特化した企業を探した方が良いでしょう。

まとめ

今日は大手総合電機メーカー8社の株価推移や業績などを比較分析してみた内容をお伝えしました。

いずれも技術立国の日本を代表する、日本の顔と言える大企業です。

同じくメーカーに勤める僕としてはこれら企業には是非とも頑張って欲しいと思っています。

それでも僕はいずれの企業も株を買いたいと思うに至りませんでした。

確実に製造業には厳しい時代になってきています。

昨年度決算は好業績の会社が多かったのですが、本決算と同時に発表される来年度の見込みはかなり厳しい数値になるんじゃないかと予想しています。

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