近年毎月分配型の投資信託が人気を集めています。しかしその商品説明の内容は、カバーコール戦略やオプションプレミアムなどの素人には決して分らない言葉を使った複雑怪奇な仕組みになっています。
今日は僕が代表的な毎月分配型投資信託の目論見書を読み理解したことを可能な限り直感的に解るように説明したいと思います。
人気のある毎月分配型の投資信託の代表的なものとして以下の3つについて中身を調べました。これらだけで資産合せると3千億円以上となっており、投資者の一体難何割がその中身を理解しているのだろうかと心配になります。
・日本株アルファ・カルテット(大和住銀投信)
・ニッセイグローバル好配当株式プラス(ニッセイアセットマネジメント)
・ブラジル株式ツインαファンド(T&Dアセットマネジメント)
この人気の3銘柄の主体となる投資先は名前のとおり異なりますが、「カバーコール戦略」と「オプションプレミアム」というキーワードが共通して使われていました。この2つの言葉が、投資戦略として以上に「売り文句」として効果的だなぁと感心しました。
目次
毎月型投資信託の売り文句
僕が投資に詳しくない人にこれらの投資信託を売ろうとするなら、こう説明するでしょう。
僕:「いろいろ難しく見えますが、株価が上がった場合はもちろん利益が出ますし、株価が多少下がった場合でも「カバーコール戦略」により、損失を最小限に抑えることができる、安定した資産運用をお求めの方に適した商品です。さらに株式の配当に加えて「オプションプレミアム戦略」で得た収益を基本に、毎月分配金をお出しします。」
嘘はついていません。
ただ、これを聞いた客は次のように解釈する可能性があります。
客:「カバーなんとか戦略で投資した資産は基本的に保持されつつ、配当とオプションなんとかの両方で分配金が貰えるなんてすごい仕組みだ。」
僕は更に次のように畳み掛けます。
僕:「退職金を金利ゼロの預金に入れてただただ取り崩すくらいなら、この商品を通じて資産運用した方が得だと思いませんか。株価も上昇傾向ですので今がチャンスです。投資金額が多いほど分配金も多くなるため、ある程度まとまった金額での投資がオススメです。」
客:「(預金の金利は下がる一方だし、投資で億り人なんて言葉があるくらいだから投資には興味はある。だけどリスクは取りたくない)、言ってることの理屈は通ってるし、退職金全部それに充てるのもありかもなぁ」
退職金である程度まとまったお金を手にし、その扱いに悩んでいる方がこのような判断をしてしまっている例は意外と多いと思います。
僕はこれらの投資信託を否定するつもりはないですが、2つのキーワード「カバーコール戦略」と「オプションプレミアム」を用いた投資手法についてざっくりでいいので理解することで、自分がどういう投資にお金を賭けているのかを認識頂ければと思います。
カバーコール戦略とは
株式への投資と、同株式(指数)へのコール・オプションの売りの2つを同時に行う手法です。はい、全く意味が分りませんね。1つずつ見ていきましょう。
株式への投資
これはシンプルです。アルファカルテットであれば日本株式、ブラジル株式ツインであればブラジルの株式(ETF)を購入します。これによる損益は下図のとおりとなります。
当たり前ですが、株価が上がれば利益が出て、下がれば損をします。
コール・オプションの売りとは
コール・オプションとはデリバティブ取引の1つで、これを「売り」で活用しています。イメージで言うと条件付きの信用売りという感じです。更に意味不明と思いますので、これを用いた場合の投資損益イメージを図示します。
株価が上がると損が出て、下がった場合は上の図のオプションプレミアム分が利益となります。株価が下がれば下がる程利益の出る信用売りとの違いは、利益はこのプレミアムと呼ばれる分のみとなります。
株式投資とコールオプションを組み合わせる効果
上の2つを同時にすることで何が起こるかというと、株価の値上がりの恩恵を一部放棄することになる代わりに、値下がりの影響を低減することができます。
上の図の赤線が損益となります。単純に青と緑の線を足しただけです。
これはあくまでイメージです。実際は市場の状況に合わせて各ファンドで設定したバランスで運用されています。
この赤線の通りに運用できれば、値上がりの恩恵は抑えられるものの、値下がり時にある程度相殺効果が働くことが期待されます。更に購入した株式の配当による収入は得られます。これがカバーコール戦略の基本です。
カバーコール戦略の落とし穴とリスク
カバーコール戦略そのものの狙いは理解しました。確かに素人では運用できない内容です。
ただ、僕には2つの問題点があるように思います。1つは、本当にこの狙い通りに運用できているのかということ、2つ目は、想定以上の値下がり時はしっかりと損失を被るということです。
1つ目については、次回の記事にまとめたいと思いますが、2つ目について投資されている方がしっかりと認識しておくべきだと思います。
僕だったらこれらの商品をこう説明する
売れない営業マンの僕ならば冒頭の3商品を以下のように紹介します。
日本株アルファカルテット
基本的には日本の株価が上がるならば利益が出ます。ただし毎月の分配金を捻出するため、基準価格は上昇するとは限らず、安定して株価が上がらない限り基準価格は下落することの方が多いです。でも株価が上がる限りは、トータルで損はしないと思います。
株価がほとんど動かなかった場合は、おそらく損をします。インデックス投信と違いましてこちらは複雑な運用をしているもので、手数料が高くなっています。毎月の分配金はお預け頂いた資産を切り崩してお支払いすることになります。確かに株式からの配当は得られますが、分配金を補うほどではありません。そもそも日本企業の配当は年1回ですしね。
株価が下がった場合は間違いなく損します。お預け頂いた資産を取り崩す形で分配金を出します。基準価格も下がります。プレミアムは確かに受け取れますが、これも分配金の額に比べたら微々たるものです。
あっ、僕ですか。僕は買ってませんよ。だって日本株に投資するなら普通にインデックスの投資信託の方が手数料も安いですしパフォーマンスもいいですから。
ニッセイグローバル好配当株式プラス
米国の株価が上がるならば利益が出ます。以下同文。
ブラジル株式ツインαファンド
ブラジルの株価が上がるならば利益が出ます。以下同文。
まとめ
今日は毎月分配金型でよく使われているカバーコール戦略について考えてみました。素人ですので間違っているかもしれませんが、大切なのは、これらが本質的に何に賭けているのかを理解することだと思います。
難しい理屈で、耳障りの良い言葉だけ抜き取った説明に惑わされてはいけません。今日ご紹介したものは市場は違えど、株式市場に投資しているということです。これに資産を全て投入するというのはもの凄くリスクの高い投資だと思います。
リスクを取るのがよくないということではありません。リスクを認識した上で投資をして欲しいということです。